「NAVER CareCall」の公共分野における導入研究、 国際会議「CHI 2025」に採択
13の導入拠点に所属する公共機関職員21人を調査し、AIを活用した見守りの可能性と持続可能な運用に向けた課題を検証
NAVER AI LabおよびNAVER Cloudの研究者らが参加した、AI安否確認電話サービス「NAVER CareCall」を対象とする研究論文が、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)分野の主要国際会議「CHI Conference on Human Factors in Computing Systems 2025(CHI 2025)」に採択されました。
CHI 2025は、国際的なコンピュータ関連学会であるAssociation for Computing Machinery(ACM)が主催し、2025年4月26日から5月1日まで横浜市で開催されました。
採択論文のタイトルは「Understanding Public Agencies’ Expectations and Realities of AI-Driven Chatbots for Public Health Monitoring」です。社会的に孤立する人々を見守る大規模言語モデル(LLM)ベースのチャットボットを公共機関が導入する際、意思決定者や管理担当者、現場職員がAIに何を期待し、実際の運用においてどのような変化や課題を経験したのかを明らかにしています。
論文は、University of California, IrvineのEunkyung Jo氏、NAVER AI LabのYoung-Ho Kim、NAVER CloudのSang-Houn Ok、University of California, IrvineのDaniel A. Epstein氏による共同研究です。
研究チームは2023年秋、韓国国内の13の導入拠点において、NAVER CareCall(論文中の表記:CareCall)の導入や運用に携わった公共機関職員21人を対象に半構造化インタビューを実施しました。対象者には、サービス導入の意思決定、行政・運用管理、通話結果を確認して必要な対応を行う現場モニタリングなど、異なる役割を担う職員が含まれています。調査対象となった拠点では、合計4,000人を超える住民に対して見守りサービスが提供されていました。
調査の結果、AIチャットボットによって、従来の人手による電話や訪問だけでは十分に対応できなかった人々にも定期的な見守りを届けられるようになり、対象範囲と連絡頻度を拡大したいという意思決定者の期待は、おおむね実現していたことが確認されました。
また、LLMを活用した自由度の高い会話を通じて、利用者が健康状態や日常生活上の困り事、社会福祉サービスに関する要望などを自然に伝えるケースも確認されました。現場職員は、あらかじめ決められた質問だけでは把握しにくい、これまで十分に満たされていなかった支援ニーズを発見する手段としてNAVER CareCallを評価していました。
一方、研究では、AIの導入が必ずしも現場職員の業務負担軽減に直結するわけではないことも示されました。見守りの対象範囲が広がる一方で、それに対応する人員や運用体制が十分に拡充されなかった拠点では、健康上の懸念が検知された利用者への確認、連続して電話に応答しなかった利用者への連絡や訪問、関係機関への引き継ぎなど、新たな業務が発生していました。
特に、電話への不応答が必ずしも緊急事態を意味するとは限らず、利用者が電話を忘れていた場合やAIとの会話を望まなかった場合にも、現場職員による確認作業が必要になることがありました。研究チームは、AIが既存業務の一部を代替すると同時に、異なる種類の確認・維持業務を生み出す可能性を踏まえ、導入段階から必要な人員、役割分担、研修、対応手順を具体的に設計することが重要だと指摘しています。
論文では、公共分野でAIチャットボットを持続的に運用するため、既存の公共インフラを有効に活用することに加え、利用者が一時的に応答しなくなった場合に備えた代替的な確認手段を設けることを提案しています。また、音声による見守りが適さない利用者にも対応できるよう、既存インフラを活用したパッシブセンシングなど、複数の手段を相互補完的に組み合わせる可能性も示しました。
NAVER CareCallは、AIが定期的に電話をかけ、健康状態や日常生活について会話しながら利用者の安否を確認するサービスです。2021年11月に韓国・釜山で提供を開始し、論文によると、2024年12月時点で韓国国内の140を超える公共機関を通じ、3万人以上に提供されていました。
今回の研究は、AIを公共サービスへ導入した際の価値を技術性能だけで捉えるのではなく、サービスを実際に運用する職員の業務や既存の支援体制に生じる変化まで含めて検証した点に意義があります。AIによって見守りの対象範囲を拡大しながら、その後の対応を担う人や組織の体制も併せて設計する必要性を、実際の公共サービス導入事例に基づいて示しています。
なお、本研究は韓国の公共機関における導入事例を対象とした質的研究であり、調査対象の多くは比較的小規模な実証事業でした。研究チームは、法制度や文化、公共インフラ、AIに対する社会的信頼などは国や地域によって異なるため、他の国や公衆衛生分野、大規模な導入事例へ研究結果を適用する際には、こうした背景の違いを考慮する必要があるとしています。また、参加者が導入前の期待を実際の運用経験を踏まえて振り返っている点も、研究上の制約として明記されています。
本研究は、米国国立科学財団(NSF)の研究助成IIS-2237389およびNAVER CloudのNAVER AI Labにおけるリサーチインターンシップの支援を一部受けて実施されました。論文の内容は著者らの責任によるものであり、支援機関の公式見解を示すものではありません。
論文の詳細は、ACM Digital Libraryで確認できます。また、CHI 2025の詳細は、公式ウェブサイトをご参照ください。

